Serotonin Reduction in Post-acute Sequelae of Viral Infection | ウイルスの腸管持続感染によって血中セロトニン濃度が低下する

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Author

司馬博文

Published

10/29/2023

Wong+ (2023) Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection

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に衝撃の事実が書かれていました.アブストラクトのみから内容を概略すると,

  1. ウイルスが腸管で持続的な感染を起こした場合は、トリプトファンの吸収が免疫活動により阻害されるようで、血液内のセロトニンが減少し、その状態が急性症状が落ち着いた後も戻らず、末梢の迷走神経に機能障害を起こし、認知機能への障害を自覚症状とするブレインフォッグを催す、という作用機序を示唆するデータを示している。ただし全てマウスでのデータ。
  2. ブレインフォッグにSSRI(抗うつ剤だがパニック障害などにも適応あり)やトリプトファンサプリが有効であることを実証。
  3. 以上の機序はあらゆるウイルスによる腸炎で起こるはずだが、SARS-Cov2は腸管感染と腸への持続感染を特に起こしやすく、社会問題化しやすかったという背景がある。

現実とは,一体なんと複雑なのでしょうか.しかし,その一端を掴みつつあることが,とても喜ばしく感じます.

筆者は過去に家庭教師先の教え子が,コロナウイルスワクチンの接種を機に深刻なブレインフォッグを催し,大学受験を1年遅らせる決断に至るまでを見届けたことがあります.当時はどう調べようにも,情報が限られていました.

そこから約2年が経ち,その病理に始まり,「コロナに限らないということ」「ブレインフォッグも治るということ」が判ったのは大きな進歩だと感じられます.

ブレインフォッグに限らず,自律神経様の症状(めまいがする,眠れない,集中できない,頭がぼうっとする)は,多くの神経的疾患に付随する症状で,原因特定が難しく(病の原因と思われがちだが結果の場合が多い),周りからの理解が得にくいことが多いです.

それぞれの症例に対して,上述のような生理学的な要因が明らかになり,必ずしも心因性ではないこと(ましてや「気のせい」や「病は気から」などとんでもないこと)が周知されることは,このような現代特有の病気をも,現代が再包摂する第一歩になると感じます.

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