法律家のための統計数理(?)数理ファイナンス入門

教科書第4章 (pp. )

草野数理法務
Author

司馬 博文

Published

1/02/2024

概要
教科書第3章第5節から第8節 (pp. 96-126) を通じ,

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1 大王製紙CB発行事件

大王製紙CB発行事件

(東京地判, 2018)

  • 東京証券取引所市場第1部上場会社 Z の取締役 Y1 〜 Y13 に対して,
  • Z の株主 X が,
  • 株主総会決議を経ずに「特に有利な条件」で転換社債型新株予約権付社債を発行したこと(を含め計3点)が,
  • 会社法 429 条 1 項に基づく損害賠償責任に該当する

として訴えを起こした事件である.

訴えは認められず,控訴も棄却された (潘阿憲, 2020), (川島いづみ, 2021)

新株予約権の公正な価値は,一般に,現在の株価,権利行使価額(転換価額),行使期間,無リスク利子率,株価変動性(ボラティリティ)等の要素をもとにオプション評価理論に基づき算出された新株予約権の発行時点における価額であると解されており,また,オプション評価理論において,新株予約権等のオプションの価値を評価する手法としては,ブラック=ショールズ公式,二項モデル,モンテカルロ・シミュレーションといった複数の手法があるとされているが,評価に採用する要素及びその数値が同一であれば,算出される結果は基本的に等しくなるとされている。

もっとも,証拠(甲33,34,丙49の1・2)によれば,ボラティリティ(株価変動性)や無リスク利子率については,いかなる数値を採用するかにつき一定の裁量の余地があることが認められ,その意味で新株予約権の理論価値は常に機械的・一義的に定まるものではない。

References

川島いづみ. (2021). 新株予約権付社債の有利発行・不公正発行該当性. TKC ローライブラリー 新・判例解説 Watch 商法, 146.
東京地判. (2018). 判決〔控訴〕. 資料版商事法務, 415, 83.
潘阿憲. (2020). 新株予約権付社債の不公正発行と取締役の責任. 法学教室, (473), 129.