総研大と鎌谷研の学生募集ですわ〜! https://t.co/kv27wI4wtV
— 総合研究大学院大学お嬢様部 (@sokenojou) June 5, 2024
A Blog Entry on Bayesian Computation by an Applied Mathematician
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筆者は 2023 年度入学 であり,その場合についてのみ述べます.
特に,本稿で紹介している 2023 年度の制度から変更がある可能性がありますから,本格的に進学を検討する場合は,記事中に適宜付しました「チェックすべきリンク集」のリンク先もご確認ください.
1 統数研での5年一貫博士課程
1.1 総合研究大学院大学について
統計数理研究所において研究教育を受けたい場合,大学院生としては
に所属することになります.
上位概念から解説して参ります.
総合研究大学院大学(略して 総研大)
学部を持たない国立(大学院)大学です.1 1988 年の開学以来 35 年の歴史を持ちます.
先端学術院先端学術専攻
総合研究大学院大学はもともと複数の専攻に分かれてしましたが,1つの「先端学術院先端学術専攻」に統合され,20 個のコースに分かれている,という扱いになりました.受験者にとって大事なことには,このことにより定員に関する融通がより効くようになりました.このこともあり,統計科学コースは定員2名となっていますが,2024 年度のように受験者数2名でも合格者が0名などの展開が十分に起こり得ます.
統計科学コース
全 20 コースの一覧は こちら からご覧になれます.それぞれのコースが 基盤機関 と呼ばれる研究所と対応しており,実際の教育研究はその研究所で行われます.2 統数研の他には,国立天文台,宇宙科学研究所(JAXA の一部),国立民俗学博物館,国立情報学研究所などが基盤機関としてあります.
1.2 学生数について
5年一貫博士課程の定員は2名ですが,2021 年度から2023 年度は1名,2024 年度は0名でした.
一方で,3年次編入(通常の博士課程に相当)の定員が6名で,毎年ほとんど6名の方が入学されます.例年,そのうちの \(2/3\) が社会人学生です.
2024 年4月1日の学生総数は \(34\) 名で,うち社会人が \(24\) 名になります.大多数が社会人であることの影響で,社会人学生以外の学生を フルタイム学生 と呼ぶ伝統があります.
社会人学生の方は基本的にリモートでの研究指導を受けることになりますから,研究所には半年に一回来れれば良い方だという方も多いです.
そのためフルタイム学生は同期の存在が期待できないだけでなく,そもそも研究所に来てもほとんど他の学生に会えないことも多いです.
1.3 教員陣について
統数研には授業を開講している専任教員だけで 81 人います.
また上掲の 統数研の教員と専門一覧 から分かる通り,凡そ統計に関連のある分野が理論・応用を分けずに網羅されており,それもスター研究者が揃っています.
統計は,応用をすれば大変多くの分野に応用されますし,理論的なアプローチも数学・物理・最適化など多様ですから,普通の大学院ならば複数の研究科・専攻に散らばっているはずの教員陣が1つの研究所に揃っている ことは,統計を学生として学ぶにあたって大変な恩恵になります.
例えば 統計数理セミナー はこのことを端的に感得する良い機会です.筆者も,統数研の教員陣の真の裾の広さを,ここで初めて実感することができました.
統数研では 統計数理セミナー と呼ばれる研究発表が毎週水曜日 16:00~17:20 (40 分のセッションが2回)に開催されており,全ての教員は毎年1回は発表することになっています.
統計数理セミナーは,学生が出席報告とレポート提出をすることで単位を取得することも出来る授業としても開講されています.そこで多くの分野の最新の研究に触れることになり,必ずや新たな発見があることでしょう.
特に,数学と数理統計の一部しか知らずに入学した筆者にとっては,実際の統計モデリングの研究(地震データ,天文データ,統数研が実施している 国民性調査 のサーベイデータ),機械学習の理論研究,マテリアルズインフォマティクスへの応用などが,そこで出会った新しいトピックでした.
以上のトピックは思いつく順番に挙げたまでですが,多岐に渡る研究分野の存在と,その分野でのスターが揃っていることを,入学してしばらくしてようやく理解されてきました.
1.4 授業について
統数研では教員が学生数の3倍近くいるため,授業は大変充実しています.しかしその分,多くの授業では教員と1対1になることが想定されます.
ですが,先生がメーリングリストで追加の参加者を呼びかけたり,学生側が他の学生を誘い合わせたりして,参加人数を増やして授業を盛り上げることもできます.
開講が珍しい授業ですと,教員陣も学生として参加していることも珍しくありません.
実際筆者も今まで7つの講義を取りましたが,まだ1対1の授業は経験していません.一方,受講者が2人だけということは3回ほど経験しています.
また,社会人学生が \(2/3\) を占めている以上,リモートやハイブリッドでの開講や日程調整については極めて柔軟に対応されます.
筆者は統数研から遠い片道2時間弱の場所に住んでいるため,なるべく対面授業の日は1日にまとめたく,よく日程を調整していただいています.
1.5 金銭支援について
リサーチ・アシスタント
5年の間いつでも,申請をすることで RA としての雇用を希望することができます.月額約 10 万円の給与が7月から3月まで支給されます.1年ごとの更新です.3
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博士後期課程(5年一貫課程の3年次以降)では,特別研究員制度へ応募することができます.これは学振の特別研究員(DC1, DC2)に似た制度です.総研大の学生は学振のものと併せて2つの特別研究員制度が利用可能ということになります.
授業料免除 や 奨学金 を除いて,統計科学コース独自のものは基本この2つです.
他にも,次の研究支援があります:
研究環境整備費
初年度に 20 万円を上限に,PC やモニターなどの研究環境を整えるために,学生に予算が配分されます.
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数日〜1年前後の多岐に渡る期間について,学生の海外での研究滞在にかかる費用を 100 万円を上限として援助してもらえるというプログラムです.4
1.6 修士号について
五年一貫博士課程では,基本的には 博士(統計科学) の学位のみが授与されます.5
しかし特例として,2年以上在籍し,特定の要件を満たした場合は,中途退学と同時に修士の学位を得ることもできます.
詳しくは (学生便覧, 2023, p. 5) をご参照ください.
1.7 図書室について
統数研での研究環境について,筆者が最後に触れたいのは 図書室 の存在です.
統数研の歴史は極めて長く,戦前の 1944 年に設立され,2004 年度までは文部省直轄の研究機関でした.
そのこともあってか,殊に統計と数学に関しては膨大な文献が揃っています.特に古典的な文献については,筆者は今のところ参照したい書籍が統数研図書室で見当たらなかったことはほとんどありません.
歴史的に貴重な文献が「文部省統計数理研究所」の印と共に2冊ほど所蔵されている,という経験が何度もあります.最新の書籍も和書ならば寄贈や,同研究所の先生方がすでに買っているかなどのことも多く,よく揃っています.
なお,電子リソース(論文や e-book)も,統計・数学関連のものは統数研内のネットワークからアクセスすることで殆どが閲覧できます.自宅にいても,ssh
を通じた所内ネットワークへのリモートアクセスで随時論文などの電子リソースにアクセスすることができます.
2 学生生活について(私の場合)
以上が統数研で学生生活をするにあたっての基本的な情報です.
具体的なイメージが湧きましたでしょうか?
以降,統数研への進学を検討している方に向けて,わたしの主観的な見解も交えて,統数研での学生生活の美点と欠点について詳しい紹介をします.
2.1 結論
結論として,統数研での学生生活は 学生が少ないという欠点を除けばこの上なく理想的な環境だ と考えます.
その理由は次の通りです:
2.2 【注意喚起】同期が居ないことについて
まず最初に,最も重要な点を述べます.
統数研での博士課程は,通常の大学院生活とは全く違うものになることは確かです.
最大の違いは,研究室の同期・先輩が居ない代わりに,教員・事務の先生方との距離が近い,ということです.6
最初から「大人」としての振る舞いが求められる,とでも言うべきでしょうか.
換言すれば,学生は研究所内では極めて少数派ですので,先生方も事務の方々も,学生が何で困っているのか,本当に想像がつかない場合が多いのです.さらに言えば,あなたが学生であることも言わなきゃわからないことが多いです.
ですから,少しでもわからないことや不安なことがあれば,先生方も事務の方にはっきりと「自分は学生である」ということと「こういうことで困っている」と言語化してコミュニケーションを自分から取りにいかないと,困った状況に陥りやすいです.このことが,最大の注意点でしょう.
例えば研究や資料準備などがうまく行っていなくて後ろめたい気持ちがあり,大人とのコミュニケーションを避けがちな精神状態であるときは尚更ですから,普通の大学院生活よりも「時すでに遅し」という状況に陥りやすいと言えるかも知れません.
この点から,「基本的には,特別な理由がない限り,5年一貫博士課程は勧めない」という立場の先生方も多いです.
「研究室内に溜まった暗黙のノウハウ」のようなものもありませんから,学振特別研究員の申請,奨学金・授業料免除などの諸々の申請,図書館カードを作ってもらう,研究費の使い方,発表用ポスターの作り方,スパコンの使い方,eduroam を使えるようにしてもらう(以降略)など,積極的に先生方と事務の方々に,時には,「すみません,一から何をすべきか分からないかもしれません」と「迷惑」をかけていく姿勢が必要になることもあるかもしれません.
その点,研究所外でのつながりも重要です.
「迷惑」と書きましたのは,実際は迷惑ではないからです.自分で調べて解決しようとしても,すでに共有された慣習やルールがあるかもしれませんから,自己流にやってミスる/手遅れになるよりかは,わからないことはわからないと聞くのが「正解」であり,想定されています.
自分からアクションを起こさなきゃいけないのは,5年一貫制博士課程の入学者が毎年0か1かですので,先生方も事務の方も本当に忘れている場合の方が多いです.
その意味で,学生はマイノリティですから,「自分は学生としてここにいる」という気持ちを強く持って,研究生活を歩むのが大事だと思います.
さらに言えば,マイノリティである学生の中でも社会人学生が大半を占めます.社会人学生の方の多くは大変にコミュニケーションがうまく,先生や事務の方と本音で話をしたり,うまく協力関係を構築したりすることが大変上手な方も多いです.
それゆえ,学部からストレートで統数研に来た場合,右往左往してしまうことが多くなるかもしれません.
しかし統数研は学生数が少ないため一人当たりのリソースが多く,社会人の方が共同研究を遂行するには最高の環境でしょう.学生のみなさんも,以上の理由からみすみすこの環境を逃すにはもったいないと考えます.
そこで,本記事を用意したのでした.
2.3 学生生活の支援
先生方も事務の方も,困っている学生を助けたいと常に配慮してくださいますし,上述の通り,支援制度と研究環境は大変充実しています.
またとりわけ,大学院担当の事務の方々は,学生の背景もよく覚えていてくださり,申請書を書く際にいくつかわからない項目や揃わない書類があった際は親身になって相談に乗ってくださいます.
例えば,筆者のミスで出席連絡メールが数回不着であったときは「司馬くんのことだし出席してるよね?もしかして送信先ミスってない?」と気づいてくださったりもしました.
ですから,良い環境で研究したいと主体的に思える方は,ぜひ統数研の5年一貫博士課程を検討してみて欲しい,その気持ちで筆を取っております.
健康診断も職員と同一扱いであるため,めっちゃすごいところでの検診になります.学部の頃は移動式のバスとかだったのに(もちろんそれが劣るわけではないですが),健康診断専用の宿泊も可能な施設での検診です.すごい安心感.
2.4 研究室の様子
先ほど第 2.2 節で「同期がいない」と強調しました.5年一貫博士課程の場合は,通例あなたひとりになりますから,同期はいないと思って良いでしょう.
一方で,研究室には先輩がいる可能性があります.次に述べます通り,学生がいる研究室はいくつかの研究室に集中しているためです.
筆者の入学時,5年一貫博士課程生は筆者を入れて4名,3年次編入学生が33名でした.
2.5 授業について
5年一貫博士課程の卒業要件では,必修授業(研究指導)を除いて 20 単位の取得が必要です (学生便覧, 2023, p. 22).
私は修士の1年の間に(必修を除いて)12 単位を取得しましたので,あと4授業分を4年で消化すれば良いことになります.
12 単位を取ったと言っても,すべて「1年の間に取るべきだ」と考えた準必修の入門的なオムニバス講義でしたから,単位取得や成績の確保に追われるようなことはなく,自分の学びたいことをじっくり学べた1年でした.7
統計科学コースには準必修と呼ぶべき「取らなきゃいけない授業」はありませんが,修士のうちに履修すべきとされる基本的な内容を扱う 基礎科目 と呼ばれる授業が全部で8つあります.
そのうち,次の3つを筆者は履修しました.
また,統数研が毎年開催している公開講座も,学生ならば無料で参加ができます.
3 終わりに
ページ下部のコメントからもぜひお気軽にお問い合わせください.
References
Footnotes
総研大本部は葉山にキャンパスありますが,そこに通うことは,統合進化科学研究センターに対応する統合進化科学コースを除いてありません.↩︎
収入の要件があります.例えば学振特別研究員はここに書いた意味での RA を利用できません.また,指導教員が別の予算を持っている場合は,その予算から追加で(二重に)雇用される場合もあります.↩︎
国内での研究滞在にも同様の援助プログラムがあります.↩︎
場合によっては博士(学術)も授与されます.↩︎
現在,統数研では,複数名の学生がいる教員も5名ほど居ます.ですが,それでも同期は基本的におらず,先輩もすぐに卒業してしまったり,社会人であり殆ど連絡を取る機会がない,という場合が多いです.同期・先輩の存在を期待して進学するのは危険でしょう.↩︎
例えば,計 20 単位を5年で消化することにして,1学期に1授業ずつ取ることも,制度としては出来ます.↩︎