Duane+ (1987) Hybrid Monte Carlo

論文メモ

Review
Author

司馬博文

Published

4/18/2024

概要

Duane et al. [Phys. B 195(1987) 216-222] は Hamiltonian Monte Carlo 法の提案論文と目されているが,その実は全く違う文脈の中で提案された.場の量子論における (Parisi and Wu, 1981) の確率過程量子化や小正準法にように,正確に物理的過程をシミュレーションする必要はないのである.これを Metropolis 法の提案核に使うことを提案した論文である.

1 概要と背景

1.1 HMC とは

hybrid Monte Carlo とは,MD と MC(=Metropolis 法) の融合を指す.

すなわち,粒子を動かして,これを棄却手続きによって正準集団を作る MCMC 法を指すが,粒子の動かし方=提案核を運動論から構成するというのである.1

そもそも著者は (Simon Duane, 1985) において,場の量子論をシミュレーションするための “hybrid algorithm” を提案していた.これは第三の量子化と呼ばれる (Parisi and Wu, 1981) の確率過程量子化に基づく Langevin algorithm と 小正準法(量子系に対する MD 法)のいいとこ取りをする確率的アルゴリズムである.

ここからさらに Monte Carlo を導入し,「MD を提案分布にする」という発想の転換がある.正確には,任意の Hamilton 力学系を提案分布にとっても,Metropolis 法が使えるということを示唆したのである.この Hamilton 力学系を正確に取ると,これは hybrid algorithm になる(古典系に対しては MD に一致するだろう)が,必ずしも正確に取る必要はないのである.

1.2 概要

(Simon Duane et al., 1987) は格子上の場の理論における数値シミュレーション法として提案している.格子ゲージ理論は量子色力学で扱われる模型である.

  • 大きなステップサイズを用いても離散化誤差がない
  • フェルミオン自由度を含む量子色力学系のシミュレーションに有効

である点が abstract で触れられている.

1.3 はじめに

フェルミオン自由度がある系では,“Grassmann nature of the fermions” を除去するためにまず積分をして有効作用のみを取り出し,残りのボゾンのみを考えるが,このときに非常に遠距離な(非局所的な)相互作用になってしまう.

従来法には次の2つがある:

  1. exact / entire Monte Carlo:ボゾンの局所的なアップデートは系の全体の状態をシミュレーションしないとわからないから,nested Monte Carlo ともいうべきサブルーチンを回す必要がある.pseudofermion を導入して,有効作用の変化を効率的に計算し,これを用いて元々のボゾン場をアップデートする.要は棄却のステップが大変に高価ということだろうか?
  2. 運動方程式の計算:MD に対応する方法である.小さいステップサイズで系全体を運動方程式に沿ってアップデートしていくことで,非局所的な有効作用というものは考えなくて済む.しかし,運動方程式の決定論的計算に伴う truncation error が導入される.

後者の計算効率性と,前者の正確性を両取りすることを考える.

2 本論

HMC は結局完全に Metropolis 法 (Metropolis et al., 1953) の枠内であり,詳細釣り合い条件を満たしにいくことを考える.ただし,この枠組みの中で最も優秀な方法を考える,というのである.

採択関数は \[ \alpha(x,y)=1\land\frac{\pi(y)q(y,x)}{\pi(x)q(x,y)} \] で与えられるから,2 \(q(x,y)\) の計算が速いだけでなく,\(q(y,x)\) も得られやすい理論的に都合の良い提案核 \(Q\) を探すことを考える.

2.1 先行研究

この考えは molecular dynamics と Langevin algorithm をハイブリッドするアルゴリズム (Simon Duane, 1985), (S. Duane and Kogut, 1986) に基づく.

場の理論において,確率過程量子化 (stochastic quantization) (Parisi and Wu, 1981) に基づく Langevin 方程式の方法と,小正準集団の方法(MD に近い,QCD の熱力学のシミュレーションにも使われる)という2つの方法が,特に力学的フェルミオンを含んだ系の数値シミュレーションにおいて魅力的な代替理論になっている.

この2つのシミュレーションのいいとこ取りをする hybrid algorithm が (Simon Duane, 1985) で提案されており,(S. Duane and Kogut, 1986) で理論的な解析が進められた.これは,確率 \(p\Delta\) によって,Langevin 法を用いるか,小正準法を決めるというアルゴリズムである.これは系をある熱浴に接続するという物理的な解釈を持つ.加えて,このアルゴリズムの軌跡は,ある古典的な運動方程式に従った奇跡ともみなせる.

2.2 アイデア

Parisi-Wu の確率過程量子化では,仮想的な時間 \(t\) を導入して,場の量 \(\phi_i(x)\) が Langevin 方程式に従って発展するとする.こうして定まる確率過程が \(t\to\infty\) の極限で場の量子論を与えるというのである.

これに倣い,仮想的な時間パラメータ \(\tau\) と Hamilton 力学系を導入する.ここで補助変数として,共役運動量 \(\pi(t)\) が導入される.

もし Hamiltonian \(H\) を正確に対象の系と同様に取れば,採択率は \(1\) になり,これが hybrid algorithm (Simon Duane, 1985) に他ならない.しかし,ずらしても良いのである.

2.3 検証

詳細釣り合い条件を満たすことを示している.詳細釣り合い条件が満たされる主な理由は Hamilton 力学系が可逆であることによる.

References

Duane, Simon. (1985). Stochastic quantization versus the microcanonical ensemble: Getting the best of both worlds. Nuclear Physics B, 257, 652–662.
Duane, Simon, Kennedy, A. D., Pendleton, B. J., and Roweth, D. (1987). Hybrid monte carlo. Physics Letters B, 195(2), 216–222.
Duane, S., and Kogut, J. B. (1986). The theory of hybrid stochastic algorithms. Nuclear Physics B, 275(3), 398–420.
Metropolis, N., Rosenbluth, A. W., Rosenbluth, M. N., Teller, A. H., and Teller, E. (1953). Equation of state calculations by fast computing machines. The Journal of Chemical Physics, 21(6), 1087–1092.
Neal, R. M. (1996). Bayesian learning for neural networks,Vol. 118. Springer New York.
Parisi, G., and Wu, Y. (1981). PERTURBATION THEORY WITHOUT GAUGE FIXING. Scientia Sinica, 24(4), 483–.
鎌谷研吾. (2020). モンテカルロ統計計算. 講談社.

Footnotes

  1. “a form of the Metropolis algorithm in which candidate states are found by means of dynamical simulation.” (Neal, 1996, p. 55)↩︎

  2. (鎌谷研吾, 2020) より.↩︎