Peters and de With (2012) Rejection-Free Monte Carlo Sampling for General Potentials

論文メモ

Review
Author

司馬博文

Published

4/06/2024

Modified

6/29/2024

概要

Peters and de With [Phys. E 85(2012) 026703] は Metropolis 法による棄却-採択の代わりに,衝突により方向を変える粒子を想定することで,効率的な Monte Carlo 法を実行することを目指した.ただの event-driven な molecular dynamics と違い,一般の滑らかなポテンシャルに適用可能である点が革新的である.しかし,粒子系のポテンシャルは常に和の形で表されるように,一般の PDMP に基づいた連続時間 MCMC 手法も,適用可能なモデルの範囲が限定されている点が難点である (Nemeth and Fearnhead, 2021)

1 概要

統計用語でいう Bouncy Particle Sampler を,Metropolis-Hastings 法の連続時間極限として初めて提案した論文であるが,これが (Bouchard-Côté et al., 2018) に発見されるには6年の時間を要した.

これを正準分布からのサンプリング法として導入した (Peters and de With, 2012) では,この手法を event-driven rejection-free Monte Carlo 法と呼ぶ.

連続なポテンシャル \(E\) を用いることが可能なことが特徴.event-driven アプローチだけでなく,event-chain アプローチ (Bernard et al., 2009) での実装も扱った.Lennard-Jones ポテンシャルを持った流体のシミュレーションで検証した.

  • ここでは本質的には連続時間極限をとっているが,直接議論されているのはポテンシャルの細分化の連続極限である.
    • \(U(x(t))\) があったとき,\(\Delta U\to0\) の極限を考えているために,実質的に \(\Delta t\to0\) を議論している.
  • 多粒子系のなすカノニカル分布からのサンプリングを考えているため,分布が積の形に分解できることを前提としている.
  • SEC (Bernard et al., 2009) からの改良と読める.

2 導入

2.1 time-driven から event-driven へ

平衡統計力学に従って粒子系をシミュレーションする際には,MD (molecular dynamics) と MC (Monte Carlo methods) の2つのアプローチがあり得る.

しかし現状,いずれも (Metropolis et al., 1953) の採択-棄却の枠組みで実行されるのが一般的である.

棄却を取り入れた MD 法を,剛体球の系に適用すると,

  • 高濃度領域では,タイムステップは小さく取らないと,すぐに他の粒子と重なってしまいやすく,棄却率が高くなる.かといってタイムステップを小さくすると計算量が増大する.
  • 低濃度領域では,タイムスケールは分子の衝突過程に依存するので,シミュレーション時間のほとんどは無駄に使うことになる.

という難点がある.

そこで元来 MD 法では,event-driven と呼ばれるアプローチが早期に提案された (Alder and Wainwright, 1959)

実際,このアプローチは,(Metropolis et al., 1953) では叶わなかった,剛体円板系の液相転移のシミュレーションに成功している (Alder and Wainwright, 1962)1

従って,Monte Carlo 法の方にも,event-driven なアプローチを取り入れると,大きな効率改善が望めるだろう.

2.2 ED-MD から改良された点

かといって event-driven MD にも難点がある.まず (Alder and Wainwright, 1962) がシミュレーションに成功したのは剛体円板系であり,ポテンシャルは単関数である.

悪いことに,ED-MD はポテンシャルが単関数である場合にまでしか一般化できない.単関数でないと,いつイベントが起こるかが予測できないのである.

しかし本論文で提案する手法は,イベント発生時刻を Poisson 過程でシミュレーションすることにしたので,一般のポテンシャルに適用できる(分子動力学の稿 も参照).

2.3 衝突のモデリングには自由度が残る

提案手法では,Metropolis 的な棄却を実施するのではなく,衝突によって向きを変えるというイベントが起こる.

この衝突のモデリングは,MD 法のように,Newton 力学から衝突の様子をシミュレーションしても良い.

しかし,event-chain Monte Carlo 法 (Bernard et al., 2009), (Bernard and Krauth, 2011) のように,衝突をしたら,衝突を受けた粒子が運動を引き継ぐ,というルールにしても良い.(Monte Carlo 法だから,背後の物理過程に忠実である必要はない.)

2.4 他のアルゴリズムとの比較

アルゴリズム的には kinetic / dynamic MC (Fichthorn and Weinberg, 1991) \(n\)-fold way MC simulation (Bortz et al., 1975) に似て Poisson 過程のシミュレーションに帰着する.

だが上述の手法は,Poisson イベント間は何も起こらないとしている.

一方で本手法は,Poisson イベントをシミュレーションしたのちに,そのイベントの間の粒子系の動きは線形に補間される.

3 本論

Metropolis scheme のように提案と棄却によって詳細釣り合い条件を満たすのではなく,棄却するところを衝突にすることによって詳細釣り合い条件を達成することを考える.

この状態から連続極限を考えていく.

まず,\(U\) が階段関数であるとし,\(q(x,y)\) が提案されたとすると,登った段数の分だけ独立な採択-棄却を実行することで,1回の採択-棄却の手続きを代用できる( Tartero and Krauth (2023) の consensus 方式).すなわち,最終的な採択確率は \[ \begin{align*} P_{\text{no-coll}}(x,y)&=\prod_i1\land e^{-\beta\Delta U_i}\\ &=\exp\left(-\beta\sum_{i}(\Delta U_i)_+\right) \end{align*} \]

こうして,連続なポテンシャルを単関数近似して,同様の手続きを実行するアイデアが考えられるが,ここではより洗練された手法を考える.

ポテンシャルのステップ \(\Delta U\)\(0\) に近づくという連続極限を取ることで,「どの時点まで衝突せずに直進できるか」を計算することに帰着する.例えば時刻 \([s,s_0]\) の間に衝突しない確率は \[ P_{\text{no-coll}}(s)=\exp\left(-\beta\int_s^{s_0}(D_t U(x(t)))_+dt\right) \] となる.

実際に,衝突する時刻を求めるには,採択-棄却手続きのための一様変数 \(u\sim\mathrm{U}([0,1])\) を取り,これに対して \(u=P_{\text{no-coll}}(s)\) を満たす時刻 \(s\) を計算すれば良いのである: \[ -k_BT\log u=\int^s_{s_0}(D_tU(x(t)))_+dt. \]

衝突のモデルが,例えば新しい速度 \(v\) を「対称」に決めるようなものであったならば,この手法は対称な手法で詳細釣り合い条件を満たす.ここら辺も evnet-chain Monte Carlo (Bernard et al., 2009) に似ている.

4 多粒子系での実装

ポテンシャル \(U=\sum_{\alpha\in\Lambda}U_\alpha\) を持つ多粒子系を考え,衝突規則とその実装の例を提示している.

このとき,粒子の速度 \(v\) を何かしらの分布に従って refresh するとしているが,これは ECMC (Bernard et al., 2009) の名残だろう.

実際,Appendix にて,動力学の不変分布が Boltzmann-Gibbs 分布になっていることが示されており,refresh は必要ないことが注記されている.

また,ここで例示されているアルゴリズムは対称な MCMC を定めるとしているのも懸念点の1つである.

5 議論

3粒子以上が関与するポテンシャルに関しても自然に拡張でき,これが SEC (Bernard et al., 2009) にはない美点である.

MD よりも効率的であることは理論的には示していないが,実験的にはそう予想される.

It remains to be seen if the application of the method is suited for niche applications only or if it can rival with MD and Metropolis-MC for general purpose molecular simulations.

References

Alder, B. J., and Wainwright, T. E. (1959). Studies in Molecular Dynamics. I. General Method. The Journal of Chemical Physics, 31(2), 459–466.
Alder, B. J., and Wainwright, T. E. (1962). Phase transition in elastic disks. Phys. Rev., 127, 359–361.
Bernard, E. P., and Krauth, W. (2011). Two-step melting in two dimensions: First-order liquid-hexatic transition. Phys. Rev. Lett., 107, 155704.
Bernard, E. P., Krauth, W., and Wilson, D. B. (2009). Event-chain monte carlo algorithms for hard-sphere systems. Phys. Rev. E, 80, 056704.
Bortz, A. B., Kalos, M. H., and Lebowitz, J. L. (1975). A new algorithm for monte carlo simulation of ising spin systems. Journal of Computational Physics, 17(1), 10–18.
Bouchard-Côté, A., Vollmer, S. J., and Doucet, A. (2018). The bouncy particle sampler: A nonreversible rejection-free markov chain monte carlo method. Journal of the American Statistical Association, 113(522), 855–867.
Faulkner, M. F., and Livingstone, S. (2024). Sampling Algorithms in Statistical Physics: A Guide for Statistics and Machine Learning. Statistical Science, 39(1), 137–164.
Fichthorn, K. A., and Weinberg, W. H. (1991). Theoretical foundations of dynamical Monte Carlo simulations. The Journal of Chemical Physics, 95(2), 1090–1096.
Kosterlitz, J. M., and Thouless, D. J. (1973). Ordering, metastability and phase transitions in two-dimensional systems. Journal of Physics C: Solid State Physics, 6(7), 1181.
Metropolis, N., Rosenbluth, A. W., Rosenbluth, M. N., Teller, A. H., and Teller, E. (1953). Equation of state calculations by fast computing machines. The Journal of Chemical Physics, 21(6), 1087–1092.
Nemeth, C., and Fearnhead, P. (2021). Stochastic gradient markov chain monte carlo. Journal of the American Statistical Association, 116(533), 433–450.
Peters, E. A. J. F., and de With, G. (2012). Rejection-free monte carlo sampling for general potentials. Physical Review E, 85(2).
Tartero, G., and Krauth, W. (2023). Concepts in monte carlo sampling.

Footnotes

  1. そしてこの発見は,(Kosterlitz and Thouless, 1973) による液相転移の「2段階モデル」の理論が生まれるきっかけとなった. (Faulkner and Livingstone, 2024, p. 15) 4.3 節も参照.↩︎