シンガポール研究滞在記

Life
Author

司馬 博文

Published

6/25/2025

1 シンガポール生活のはじまり

6月の1日から 30 日までの1ヶ月間,総研大の研究派遣プログラムの援助を受けて,シンガポール国立大学の Alexandre Thiéry 准教授を訪問した.

昨年度のロンドン UCL の訪問 に続き,人生2度目の研究滞在である.その際は Alexandros Beskos 教授を訪問し,2度目の Alex 訪問でもある.いずれの Alex も逐次モンテカルロ法 (SMC),マルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC) 双方で顕著な業績をあげている,ベイズ計算の研究者である.2人の間には共著も多く,いずれもすでに大変な大物であるが,年齢的にはまだまだ中堅というべきである.

シンガポールは多くの面でロンドンの対極と言える街である.まず熱くて日差しが強い.緯度1度であることを思えば不思議ではない.さらに蒸し暑さで悪名高い東京の夏よりも湿度が高い.だが不思議と不快感は少ない.駅に着くまでに汗ダラダラになった,という経験は1度もしていない.おそらく,町中に日陰が多いことと,アスファルトが少なく,代わりに土と街路樹(日本のような人工的な街路樹ではなくて本当に生えている)が多いからだろう.

天気予報を見ると1週間まるまる 100% 雨の予報である週もあったが,かといってほとんど雨は降らない.どういうことかというと,当日中に雨が 1度でも 降る確率は 100% であるが,それはバケツをひっくり返したような雨で 10 分も続かないのが常である.シンガポールは屋根が多いから,近場で雨宿りしてやり過ごせば,傘を持たずとも1週間過ごせる.

そして人々の気質も違う.困っている人が居たら率先して助けてくれるのはどちらも同じであるが,

唯一ロンドンと共通する点は,人々の多様性である.ロンドンとは違いアジア人が多数を占めるとはいえ,マレー系,インド系,中華系に3分され,言語もこの3つを結構似た頻度で聞く.

2 俺の見てきたシンガポール

さらに個人的な経験を書いてしまおうと思う.

基本的に東アジア人の顔をして中華系の料理店に入ると,最初から中国語(標準語)で接客される.コスト的には納得である.牛肉麺とかを beef noodle とか言って注文する気も起きないから,まあ理にかなっているかと思っていた.

しかしある日タクシーに乗って中国語を話したところ,「君ら中国人はマナーが悪い」と説教を受けた.シンガポールは配車アプリが発達しており,運転手と全く会話せずに目的地に到着することも可能であるが,本人確認の都合もあり,確認したいことも多い.それにも拘らず何をいっても一言も喋ろうとしないおそろしい乗客はたいてい中華系なのだという.

あまりにお門違いだと思ったので事情を説明したところ,すぐに通じた.あろうことか,運転手さんは東京に 30 年以上も住んでいたことがあり,自分が日本語を喋ったらすぐにわかってくれた.1 なお,この運転手さんは,マレー系のシンガポール人で,生粋のシンガポール生まれシンガポール育ちであると言っていた.

シンガポールは極めて犯罪率が低く,麻薬使用率も極めて低い.日本で生きていると正直それがデフォルトだと感じてしまうところがあるが,ここまで多様な社会で軋轢がないはずがない.

私は,これは資本主義のマジックだと見る.少なくとも今のシンガポールは,近隣国に比べて圧倒的な富がある.その大きな要因として,英語を公用語に残してあることがある.

3 研究環境

4 BayesComp2025

5 共同研究

6 おわりに

Footnotes

  1. ここで気づくだろうが,僕の中国語は,聞き手がネイティブじゃない限り,僕がネイティブじゃないことは見抜けない完成度がある.↩︎