確率測度の変換則

Gamma 分布と Beta 分布を例に

Probability
Author

司馬博文

Published

11/24/2023

Modified

6/16/2024

Gamma 確率変数と,その変換として得る Beta 確率変数とに関する次の命題の証明を与える(第 3 節).

命題

\(Y_i\sim\mathrm{Gamma}(\alpha,\nu_i)\;(i=1,2)\) は独立とする.このとき,2つの確率変数 \[X_1:=\frac{Y_1}{Y_1+Y_2},\qquad X_2:=Y_1+Y_2\] も互いに独立で, \[X_1\sim\operatorname{Beta}(\nu_1,\nu_2),\] \[X_2\sim\mathrm{Gamma}(\alpha,\nu_1+\nu_2),\] が成り立つ.

証明に先んじて,Gamma 分布と Beta 分布の性質を,それぞれ第 1 節と第 2 節で見ていく.

最後に,確率分布の変換の計算方法をまとめる(第 4 節).混合分布や複合分布など,特定の可微分変換で密度関数がどう変化するかの計算の基礎となる.

1 Gamma 分布を見る

1.1 定義

定義(Gamma 分布)

可測空間 \((\mathbb{R},\mathcal{B}(\mathbb{R}))\) 上の Gamma分布 \(\mathrm{Gamma}(\alpha,\nu)\;(\alpha,\nu>0)\) とは, 密度関数 \[g(x;\alpha,\nu):=\frac{1}{\Gamma(\nu)}\alpha^\nu x^{\nu-1}e^{-\alpha x}1_{\left\{x>0\right\}}\] が定める分布をいう.実際,\(t=\alpha x\) と変数変換すると, \[ \begin{align*} &\quad\int_0^\infty \alpha^\nu x^{\nu-1}e^{-\alpha x}dx\\ &=\alpha^\nu\int^\infty_0\left(\frac{t}{\alpha}\right)^{\nu-1}e^{-t}\frac{dt}{\alpha}\\&=\int^\infty_0t^{\nu-1}e^{-t}dt=\Gamma(\nu).\end{align*} \]

1.2 形状

\(\alpha\) をレートパラメータ(スケールパラメータと呼ばれるものの逆数),\(\nu\) を形状パラメータともいう.レートパラメータが大きいほど突起も大きく,手前に寄る.形状パラメータ \(\nu\) は分布の形状を大きく司る.

実際,先度と歪度は形状パラメータのみに依って \[\gamma_1=\frac{2}{\sqrt{\nu}},\qquad\gamma_2=3+\frac{6}{\nu},\] と記述される.

その意味するところを感得するために,scipy.statsでの実装を用いてプロットしてみる.

コードを表示
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from scipy.stats import gamma

nu = 1.5  # 形状パラメーター

# Gamma分布のPDFをグリッド上で計算
x = np.linspace(0, 8, 100)
pdf = gamma.pdf(x, nu)

# プロットの実行
plt.figure(figsize=(3.2, 4.8)) # スマホサイズに合わせる
plt.plot(x, pdf)
plt.title('Gamma(1,3/2) Distribution')
plt.ylabel('Density')
plt.xlabel('Value')
plt.show()

レートパラメータを固定し,形状パラメータを残した \[\chi^2(k):=\mathrm{Gamma}(1/2,k/2)\] を自由度 \(k\) のカイ自乗分布ということに注意.

最後に,レートパラメータが大きいほど突起が大きくなる様子は次の通り:

なお,形状パラメータが \(\nu=1\) である Gamma 分布のことを指数分布という: \[ \operatorname{Exp}(\gamma):=\mathrm{Gamma}(\gamma,1)\;(\gamma>0) \]

2 Beta分布を見る

2.1 定義

定義(Beta 分布)

可測空間 \(((0,1),\mathcal{B}((0,1)))\)上の (第1種)ベータ分布 \(\operatorname{Beta}(\alpha,\beta)\;(\alpha,\beta>0)\) とは, 密度関数 \[\frac{1}{B(\alpha,\beta)}x^{\alpha-1}(1-x)^{\beta-1}1_{(0,1)}(x)\] が定める分布をいう.ただし,\[B(\alpha,\beta)=\int^1_0x^{\alpha-1}(1-x)^{\beta-1}\,dx.\]

2.2 形状

次のような性質を持つ:1

  • \(\alpha_1=\alpha_2=1\) のとき一様分布となり,\(\alpha_1=\alpha_2>1\) の場合に左右対称な単峰性分布,\(\alpha_1=\alpha_2<1\) の場合に左右対称な U 字型の二峰性分布を得る.
  • いずれも \(1\) より大きい場合,左のパラメータが大きい場合 \(\alpha_1>\alpha_2>1\) 左に,右のパラメータが大きい場合 \(\alpha_2>\alpha_1>1\) 右に歪んだ単峰性分布を得る.
  • いずれも \(1\) より小さい場合はその逆.

3 証明

\[\begin{cases} X_1=\frac{Y_1}{Y_1+Y_2},\\ X_2=Y_1+Y_2. \end{cases}\] を逆に解くことで, \[\begin{pmatrix}y_1\\y_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x_1x_2\\x_2\end{pmatrix}=:T(x_1,x_2)\] を得る.\(A:=(0,1)\times(0,\infty),B:=(0,\infty)^2\) と定めると,\(T:A\to B\) は可微分同相で,Jacobianは \[DT=\begin{pmatrix}x_2&x_1\\0&1\end{pmatrix},\qquad J_T=x_2,\] と計算でき,\(A\) 上で は消えない.

よって \((X_1,X_2)\) の結合分布は \[ \begin{align*} &p(T(x_1,x_2))J_T(x_1,x_2)dx_1dx_2\\ &=\frac{\alpha^{\nu_1}}{\Gamma(\nu_1)}y_1^{\nu_1-1}e^{-\alpha y_1}\frac{\alpha^{\nu_2}}{\Gamma(\nu_2)}y_2^{\nu_2-1}e^{-\alpha y_2}\\ &\qquad\times\frac{x_2}{(1-x_1)^2}\,dx_1dx_2\\ &=\frac{\alpha^{\nu_1}}{\Gamma(\nu_1)}x_1^{\nu_1-1}x_2^{\nu_1-1}e^{-\alpha x_1x_2}\frac{\alpha^{\nu_2}}{\Gamma(\nu_2)}x_2^{\nu_2-1}\\ &\qquad\times(1-x_1)^{\nu_2-1}e^{-\alpha x_2(1-x_1)}x_2\,dx_1dx_2\\ &=\underbrace{\frac{\Gamma(\nu_1+\nu_2)}{\Gamma(\nu_1)\Gamma(\nu_2)}}_{=B(\nu_1,\nu_2)^{-1}}x_1^{\nu_1-1}(1-x_1)^{\nu_2-1}\,dx_1\\ &\qquad\times\frac{\alpha^{\nu_1+\nu_2}}{\Gamma(\nu_1+\nu_2)}x_2^{(\nu_1+\nu_2)-1}e^{-\alpha x_2}\,dx_2. \end{align*} \] これは \(X_1\)\(\operatorname{Beta}(\nu_1,\nu_2)\) に,\(X_2\)\(\mathrm{Gamma}(\alpha,\nu_1+\nu_2)\) に独立に従った場合の密度になっている.

3.1 余談

総合研究大学院大学統計科学コース2018年8月実施の入試問題の第三問にて,本命題を背景とした問題が出題された.2

第3問
  1. 数直線 \(\mathbb{R}\) 上の点Pの \(x\) 座標 \(X\)\(\mathrm{N}(0,1)\) に従うとする. Pの原点からの距離の自乗の確率密度関数が \[\frac{1}{\sqrt{2\pi x}}e^{-\frac{x}{2}},\qquad(x>0)\] であることを示せ.
  2. Euclid空間 \(\mathbb{R}^n\) 内の点Qの座標 \((X_1,\cdots,X_n)\)\(\mathrm{N}_n(0,I_n)\) に従うとする. Qの原点からの距離の自乗の確率密度関数が \[\frac{1}{\Gamma\left(\frac{n}{2}\right)2^{\frac{n}{2}}}x^{\frac{n}{2}-1}e^{-\frac{x}{2}},\qquad(x>0)\] であることを示せ.
  3. (2)の確率密度関数を持つ分布を \(\chi^2(n)\) という. 確率変数 \(X,Y\) は独立で \(X\sim\chi^2(n),Y\sim\chi^2(m)\) であるとする.このとき, \[X+Y\sim\chi^2(n+m),\] \[\frac{X}{X+Y}\sim\operatorname{Beta}(n/2,m/2),\] であり,互いに独立であることを示せ.

4 確率分布の変換則

\(A,B\subset\mathbb{R}^d\) を連結開集合,\(C^1\)-微分同相 \(T:A\overset{\sim}{\to}B\) に対して,3 \(B\) 上の分布 \(\pi\in\mathcal{P}(B)\)\(T\) による引き戻し \(T^*\pi\) の密度 \(p^*\) が,\(\pi\) の密度 \(p\)Jacobian \(J_T(x)\) の絶対値との積になる: \[ p^*(x)=p(T(x))\lvert J_T(x)\rvert\;\;\text{a.s.}\quad(x\in A). \]

Commutative diagram discribing current situations
定理(変数変換)4

\(A,B\subset\mathbb{R}^d\) を連結開集合,\(T:A\overset{\sim}{\to}B\)\(C^1\)-微分同相,\(f:B\to\mathbb{R}\) を Lebesgue 可測関数とする.

  1. \(f\circ T:A\to\mathbb{R}\) も Lebesgue 可測.
  2. \(f\) は非負関数とする.このとき, \[ \begin{align*} \int_Af(T(x))\lvert J_T(x)\rvert\,dx=\int_Bf(y)\,dy. \end{align*} \]

この定理より,任意の可測集合 \(A_0\in\mathcal{B}(A)\) に対して, \[ \begin{align*} \int_{A_0}p^*(x)\,dx&=(T^*\pi)[A_0]\\ &=\int_{T(A_0)}p(y)\,dy\\ &=\int_{A_0}p(T(x))\lvert J_T(x)\rvert\,dx. \end{align*} \] ただし,最後の等号は定理による.5 \(A_0\in\mathcal{B}(A)\) は任意だったから, \[ p^*(x)=p(T(x))\lvert J_T(x)\rvert\;\;\text{a.s.}\quad(x\in A). \]

References

Agresti, A. (2012). Categorical data analysis. John Wiley & Sons, Inc.

Footnotes

  1. (Agresti, 2012) 第1.6.2節 Binomial Estimation: Beta and Logit-Normal Prior Distributions p.24 参照.↩︎

  2. 過去9年分の入試問題の解答はこちらから↩︎

  3. 記法 \(\overset{\sim}{\to}\)記法一覧 参照.↩︎

  4. 会田先生講義ノート 定理5.1 など参照.↩︎

  5. 最後から2番目の等号は,測度の押し出し \(T^*\pi\) の定義である.↩︎